大洋ボート

トゥヤーの結婚

 心が洗われた気がする。映画を見てこんな心地になるのは年に一度あるかないか、である。とにかく欠点が見当たらない。映像の美しさ、物語の展開のたくみさ、そして主演のユー・ナンは勿論のこと、脇をかためる俳優の面々も力強い。言葉の端々に気持ちがしっかりと乗り移っていて無駄がない。必然性という言葉がぴったりあてはまる。物語のはじまりが奇抜といえば奇抜だが、これはモンゴルとユー・ナン夫妻の厳しい生活環境からどうしようもなく導き出されたもので、映像によって十分に納得させられる。その後の進行はオーソドックスだ。

 砂漠の一家の生活ぶりがたいへん美しくカメラに収められている。夫は井戸掘りの際ダイナマイトによって事故にあい、下半身不随になってしまった。二人のおさない子供を抱えながら生計を支えるのは妻のユー・ナン。飼育する羊のため、また生活に使うため、彼女はとおい井戸へらくだをつれて水汲みに行かなければならない。一日二往復で三十キロという途方もない距離だ。三往復のときもあるという。ユー・ナンがそういうモンゴルの女性になりきっている。甲高い声をときおり出すのもふさわしい。らくだにまたがり、あるいはたくさんの水の入った容器をらくだに乗せて帰る。その水を自宅近くの枯れ井戸に移す、それを羊に飲ませる。羊に草を食べさせる。羊やらくだや馬とともにいるユー・ナン。朱色の頭巾がよく似合う。これがまわりの自然の色彩に対して鮮やかで、生活ぶりすべてが視聴者からみて美しい。観光気分はたしかにあるが、砂漠そのものが美しく撮られているというよりも、そこに人が生活を無理をしてでも定着させているから、砂漠もまた映えてくるのだ。だから水がひときわ美しいし、画面の上方に小さくかかった昼の月も余情を醸し出す。この映像だけでも泣きたい気にもなろうというものだ。

 ユー・ナンもはや重労働には耐えられない身体となり、離婚・再婚を決意する。ただし条件があって、現在の夫の面倒もみてくれる人に限る。夫を見捨てられないのだ。まるで素っ頓狂な話だが、一家の暮らしぶりから夫も納得する。だがこの夫の決意は生半可であることが後にわかる。相手の男は石油を掘り当てたいわば成金でなかなかの好人物だが、やはり元夫との同居は拒まざるをえない。この二人の男の心情は、たぶん視聴者にはたいへんわかりやすいものだ。「面子」という言葉で説明されるが、そうそう人はたやすくそれを捨てきれないのだ。だがユー・ナンはくじけない。時間をおかずに再々婚にまでこぎつける。彼女の決意を端的に示す映像がある。自宅でひらいた結婚式のさい、相手の親類の一人が酒を飲めないからと契りの杯を辞退すると、「私が代わりに」といって、ぐいと飲み干すのだ。だが案の定、再々婚の相手も元夫も変われないのだ……。

 自分が変わろうとしても、まわりの人たちが変わらなかったら、ついてこなかったら自分も変わったことにならない。生活もそれをささえる信条も変わらない、という重々しい現実がある。人間の信条が岩盤のように立ちはだかるのだ。最後はユー・ナンの滂沱の涙で締めくくられるが、だがわたしはこれで物語が終わったとは思いたくない。ここまでやったという充実感がつたわってくるし、微かにではあるが主要な登場人物には未来がまだ残されているのではないか、と思いたい。たとえば、仮に再々婚が破綻が回避されてつづいたとして、今度はユー・ナンが二人の男を同時に愛することができるかという問題が浮上してくる。映画ではまったくふれられなかったことだが……。困難にぶつかれるだけのエネルギーがまだ残っている涙だと受け取りたい。

 蛇足だが、隣家の男の妻のことが、折にふれて男やユー・ナンや夫の口に上る。一度も画面には登場しないが、これがなかなか気になる存在で、この映画の美点のひとつとなっている。今年のベストワン候補だ。

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