大洋ボート

君のためなら千回でも

 少年時代の友情とその亀裂が陰影ゆたかに描かれている。惜しむらくは、そこをもう少し突っ込んでもらいたかった。後の部分は冗長でしまりがない。

 アフガニスタンで生まれた主人公アミールは裕福な家庭環境にめぐまれて育った。とりわけ召使の息子ハッサンと仲がいい。少年たちは凧揚げ合戦をして遊ぶ。これは一対一の対決形式で、自分の凧を空中で操作して相手の凧の糸を切り取れば勝ちという、いささか乱暴なゲームだが、この国の伝統らしく代々受け継がれているようだ。ひとつの凧に二人がつき、一人は糸の巻き出し、もう一人は糸を揺さぶるという分担で、少年二人はつぎつぎと相手のコンビを負かしていく。カメラは地上から上空の凧を撮るのは勿論、上空から凧や青空やその下の街をも撮り、風と光を身に受けるような気にさせられてなかなか開放的だ。

 だが少年二人の仲のよさをこころよく思わない少年三人組がいる。嫉妬もあるのだろうが、それよりも彼らは身分や出身民族のちがいを口にする。アフガニスタンは多民族国家で、多数派で力があるらしいパシュトゥーン人が威張っていて、ハッサンは別の民族だ。三人組はしきりに付きまとい、ついにハッサンを拉致して性的な暴行を加える。ここは陰惨で、見ていてやりきれない。三人組の一人は大きい大人と同じ体格の持ち主でハッサンは無抵抗のまま。しかも尾行して物陰からその現場を覗いているアミールも助けに行かない。怖気ついたのだろう。

 だが二人の関係はそれで終わらない、もっと醜悪さをくわえる。アミールは無抵抗だったハッサンを「弱虫」となじるのだ。数日後のことだ。起伏の多い岩地にたった一本生えた木に真っ赤に熟した果実を、あるい落ちて腐ったそれらをつぎつぎにハッサンの身体と顔にぶつける。ハッサンはやはり無抵抗。そればかりか自分で腐った果実を顔にぶつける、ある種決意を昂然と示しながら。ここは召使の息子でかつ被圧迫民族出身という位置づけをものすごく意識したうえでの自分の生き様を、ハッサンが見せつけたことになろうか。無抵抗こそが身過ぎ世過ぎなのだと。だがそういうことはアミールにはわからない。子供なら誰一人、ちょっと環境がちがえば理解できない世界かもしれない。アミールはかえって侮辱を返されたと受け取ったのか、傍にいることに薄気味悪さを感じたのか、ここで二人の友情はこわれる。のみならずアミールは姦計をもちいてハッサン親子を我が家から追放してしまう。子供の世界ながら、随分ひどいことをするな、と思わずにはいられない。それに暴行を受けたあとよたよた歩くハッサンから地面に落ちる血と果実の赤の色彩の対比。これも厭な気分だ。

 アミールと父はやがてソ連の侵攻によってアメリカ移住を余儀なくされることになるが、このあとの展開はおおざっぱでいけない。子供時代のハミールのことを悔いている以上のこと、それくらいはともかくその内容は伝わってこない。原作の小説をなぞっているのかもしれないが、ハミールと血縁関係があることがわかってさらに彼の息子がタリバン政権下のアフガンの孤児院に収容されていることも判明する。アミールはその子供の救出のため、単身でアフガンに乗り込んで変装までしてタリバン幹部に近づくが、空気はいつのまにかアメリカ得意の行動主義的アクション映画に変質してしまっている。私としては、ハミールとの血の繋がりなどない設定のほうを、映画としては見たかった。 

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