大洋ボート

再会の街で

アダム・サンドラー(チャーリー)は9・11事件で妻と幼い娘3人?を失った。以後彼は一見痴呆状態になる。歯科医の職も投げ打ってしまい、テレビゲームに夢中になったり、ロックバンドに参加したりという具合。人付き合いを極端に避けて殻に閉じこもる。そんな彼を元ルームメイトで歯科医のドン・チードルが偶然町で見かける。声をかけるがアダム・サンドラーは思い出せない表情。うつろな表情で、話し声も小さく、すこし裏返っている。ドン・チードルは彼の事情を知っていたし、ルームメイト時代にその人柄の良さも知り、友情をあたためたらしい。友として彼をなんとか立ち直らせたいとの思いで、つきあいが復活するのだが。

映画にも出てくるが「心的外傷後ストレス症」という精神疾患にアダムは罹っている。人生で最大の残酷な仕打ちを受けたものが、立ち直れない。自分で自分をどうやっていいのかわからない。それで事件にまったく関係のない物事に逃げ込んでしまう、というところだ。だが決して彼は忘れているのではない。そんな彼の心象をたいへん大胆かつ率直に切り取った映像に出会った。彼以外誰もいない自宅に一瞬妻と子供(女の子たち)のはしゃぐ姿が映る。せいぜい1秒か2秒の時間で、この1回だけしか出現しない。ことあるごとに、いや毎日のように死んだ家族のことを思い出さずにはいられないという、彼の心象の痛切さを示す映像だ。この一瞬に、私は物凄い切れ味をあじわった。それこそ顔のすぐ前をナイフが横切ったみたいだった。映画はこういうところの直接的表現力がずばぬけている。たぶん、アダム・サンドラー自身が、この突然の記憶の喚起に誰よりも打ちのめされるのだ、と思いつつ。

この映像であとのことがすべて説明がつく。自傷願望にときどき誘われるらしい彼は、ある傷害未遂事件を起こして裁判にかけられる。(その内容や裁判の結果は伏せておきます)検事は彼がいかに危険な人物かを証明するために彼の死んだ家族の写真を彼に見せびらかす。落ち着きをなくして上半身を上下に揺すぶるアダム。この肉体表現も秀逸だ。一見検事の思うつぼに見える。だがアダムの痛切な反論にぐうの音も出なくなる。「俺は街の中で毎日家族をみつける。シェパードでさえプードルに見える(プードルは愛犬で家族と同じ飛行機に乗っていた)」「末の娘には体にアザがあった。あれも体といっしょに炎に焼かれてしまった」正確ではないかもしれないが、そんな意味あいだ。ふりしぼるような吐露である。私もうたれた。健康な家族を思い出すのも記憶だが、炎に焼かれる姿を想像するのも記憶なのだ。そして記憶というにとどまらず、彼はみずからもその炎を家族とともに浴びたいのだ。それが死んだ家族のもとに帰っていくことではないのか。だがそれは痛切な願いであるとともに、思い浮かべるだけでも心身をすり減らすに十分ではないのか。たいへんな恐怖でもある……。ここらは映画の表面には出てこない領域で、私の想像だが、付け加えずにはいられない。

ドン・チードルは、とまどいながらもお手本のようなつき合い方をする。バンド演奏についていったり、テレビゲームを一緒にやったりと。事件のことに触れると不快さを露骨に示すアダムには、さっと引く。「正常」さとやさしさを絵に描いたようで、映画的ヒーローと呼ぶべきか。アダムが平穏さをとりもどすとしたら、何がきっかけになるのだろうか。一つは、友人や周辺の支えてくれる人々に対する「恥」の感覚だろうか。また、新しい幸福の到来だろうか。だがそれには、本人の意気込みが少しずつ回復することを待たなければならない。本人にとっても周囲にとっても根気と時間が必要なのだろう。映画感想文からは、少しはみだしてしまった。

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