最終日

木の上で暮らす男
朝は歯みがき
いい匂いがして
羽虫が集まってくる
飛び散る紙吹雪の映像を
逆回転させて
大きな太陽の果実のなかで
さらに果汁にまみれる
溶けゆく蜥蜴
マッチ棒ほどにも痩せほそる
晒し首
恍惚の痒みの極み
たまらなくなって引っかく熊の爪
弦のように暫らくは揺れる空間
だがそれ以上の何物も出現せず
ユーモラスな所作には一瞬同調させられるが
結局は顔そむけるに値する
木の上で暮らす男
わたしたちもおさらばする潮時か

本物の太陽は規定どおりゆっくり上昇し
大砲の轟音の二度三度
木の上で暮らす男の幻聴にも
ラジオの戦争のニュースからも
「そんなの関係ねえ」
ジェット機がバッタのように優雅に飛ぶ
わたしたちにも男にもともに
嘘のようにやってくるという
遅れて気づかされる幸福かもしれない
空気は感覚可能なくらい薄く
吐き出すピンクの煙なまめかしく
空全体に描かれるハート型
アイスクリームで化粧した天山山脈
あいつをつれてきてやりたかった
やがてどす黒く変色するハート型の窪みの部分
放射状にひろがる皺
その部分が紙のように燃え
さらにその部分いっそう深く掘られ
やるせなくもなつかしい風情
香ばしい匂いが降りてきて
薬缶が不安定に鎮座するふち
ゆらゆらと上昇する
輪郭だけの透明体
両手をすり抜ける感覚を追う男
ウェストの優雅な曲線に
故郷のせせらぎを発見した想いか
木の上で暮らす男
わたしたちは彼の姿がなくなっていることを
明日にでも確認するかもしれない
わたしたちの意表をことさら衝くつもりもなく
彼の体から抜け出ていったものを視認すべくもないまま

23:22 | 自作詩 | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
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