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三浦展『下流社会』

 「下流社会」とは著者の造語。主に収入によるのだが、生活水準を上、中、下と分けて、「中の下」と下を合わせた層を「下流 」と名付ける。もっとも、各個人がいずれの群に属するかは、その人の自己査定によるもので、客観的な基準があって、それが当てはめられているわけではない。だからズレが当然生じてくる。例えば、この本の中でインタビューに答えているある人は、自己を「中の中」と規定するが、年収は二百万を越える程度。この本の全体の内容からすればその額では「下」に属すると考えられる。はっきり記されていないものの、年収三百~四百万円程度を著者は「中の下」と呼ぶようであり、社会的な評価もだいたいそれと同じくらいかな、と思う。そんな自己査定のズレも含めたアンケート調査による「下流社会」、とりわけ団塊ジュニア世代(著者によると1970~1974,もしくは1971~1975年生まれの人を指す。現在の年齢に当てはめると三十代前半)の「下流社会」の生活意識の考察を目指したのが本書である。

 リストラの進行や派遣会社の法的権能の拡大によって、就業者の全世代にわたっていわゆる非正規社員が増大した。その結果、「中」から「中の下」や「下」に自己査定を変更せざるをえない人が多く出現した。中流層の大きい部分が収入を減らし、「一億層中流意識」が崩れ去った。また高校や大学の新卒者が正規社員になれないといった事態も部分的に常態化する結果となった。ここまでは経済環境の悪化、変化によって説明され、異論をはさむ余地はない。さらにそれに加えて三浦は、団塊ジュニア世代の「下」に属する人たちが過剰に「自分らしさ」をもとめることが、かえって「下」からの上昇を阻む結果をもたらしている、と説く。だが、三浦のこの説には、言葉が未整理なところがあって気になる。

 「欲求調査」によると、団塊ジュニアの男性で「生活の中で大事にしていること」として「個性・自分らしさ」を挙げた者は、階層意識が「上」の者では25.0%なのに「下」の者では41.7%いる。同様に「自立・自己実現」も「上」は16.7%だが、「下」は29.2%である。
 (略)
 なぜそうなるのか?「自分らしさ」や「自己実現」を求める者は、仕事においても自分らしく働こうとする。しかしそれで高収入を得ることは難しいので、低収入となる。よって生活水準が低下する。そういう悪いスパイラルにはまっているのではないかと推測される。(P157~158)


 ここでは「自分らしさ」が、マイペースや自分勝手、わがまま、とい風に見なされている。別のところでは、のんびり生きることや、ひとりぼっちを好むことが団塊ジュニア「下流」の「自分らしさ」とされている。さらに三浦は他の著書を引用しながら、彼らのコミニュケーション能力の不足を指摘する。また、パソコン・インターネット、携帯電話、テレビゲームなどの趣味はいずれの層にも好まれているが、「下流」においてもっともそれらを挙げる人数が多いともいう。

 だが、ちょっと待てよ、と言いたくなる。「自分らしさ」という概念ほど、おそろしく幅広い受け取り方をされる概念はない。「自分らしさ」は誰でも実現してみたいと願うのではないか。団塊ジュニアの「上」層が「生活の中で大事にしていること」として挙げた「ゆとり」「仲間・人間関係」「創造性」「活動的・アクティブ」という項目も、その人にとって「自分らしさ」の発露と受け止められても、まったく自然なことだ。事実として、彼らの親の世代に当たる団塊世代の「上」層では「自分らしさ」を挙げた人が、同世代の「下」よりも多いという結果が出ている。これについては三浦は、別の説明をしているが、省略する。また三浦自身が「自分らしさ」の解釈多義性についても語っているカ所もあるので、混乱をみずから認めるようでもある。

 もう一つ指摘したいことは、こちらの方が私にとってはより重要なのだが、アンケート調査によるこの程度の考察や感想では、従来言われてきたことを出るものではないということだ。フリーターは夢見がちでなまけ者というイメージを、すっかり踏襲してしまっている。それが間違っているとはいえないにしても、フリーターや「下流生活者」は今後絶対数として存在しつづけるのだから、もっとちがった人間の顔に出会えるはずだ。せめて、フリーターの労働実態に重点を置いたアンケート調査でもしてもらわなければ。
                 光文社新書 2005年9月初版
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2006.11.04 Sat 17:19  |  seha #-
著者の三浦さんという人は、かつて優秀なサラリーマンであったらしい。自分で少し書いています。この先は私の推測ですが、その時代に若い社員やアルバイターの仕事ぶりを間近で見る機会があったんでしょう。その経験が尾を引いていて、(仕事の遅い)彼等に対する軽侮の念がちらちら見える気がします。
非エグゼクティブ系  [URL] [Edit]
>フリーターや「下流生活者」は今後絶対数として存在しつづけるのだから、もっとちがった人間の顔に出会えるはずだ。せめて、フリーターの労働実態に重点を置いたアンケート調査でもしてもらわなければ。

同感です。
同書は私も半分ほど読みましたが(笑)、私など、ある人に、年取ってはいるが、「ギャル系」と言われました(笑)。同著者の経済本、『下流マーケッティング』もどうしようかな~~~とは思いましたが……。
オバサンギャル系より(笑)  [URL] [Edit]







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