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大洋ボート

ある風景

沢蟹の釦ひとつ
窓にへばりついている

瘡蓋だらけの夕陽
わたしの見ない空で
巻き雲が下方を向く

石獅子が水を吐き出す
噴水のなかから
水以外のものも

人が廊下を歩いている
鬼百合が描かれた絵の額が
壁にめりこむ

高潮がやってくる


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    14:28 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

閉じ込められた部屋2

  群れのなかでおとなしくしていればよかった。群れの色に白く染まり、冗談や駄法螺を食い散らしていればよかったのに、そろそろ飽きてきたこともあって、運悪くおれは前面に出てしまった。親しくなりつつあった人々がそれまでにはない興味の視線を送ってきた。おれは怯んだ。血のかすかな予感にも脅えた。おれの何処にそれほどのものが貯蔵されていたのか、おれ自身が驚くほどの激情が咽喉元にせりあがり沸騰しかけたが、うろたえて逃亡した。他人事のようにとぼけた。だが激情を全的に否定したのではなかった。
  以前からあった意思には、内容的に急速に興味をそそられなくなったが、土台となる発奮力は余力の形として身体内に残存していた。愚かしくもそれが可愛らしくみえたので、唯一のおれ自身として映ったので、それを生かす場所を空想としておれの片隅に設けようとした。余力を自然消滅させたり生まれ換わらせるためには、別のあらたな目的なり行為なりを発見し没頭しなければならなかったが、そのことにまったく無頓着であった。おれは依怙地であり阿呆だった。おれもまたその場所に居たであろう横断的広がりに無関心であったから、それが見つけられなかったのでもある。余力を無修正にしたまま空想の片隅に解きはなちミミズのように泳がせること、その尻尾が垂れるであろう糞や屁の微細に拘ること、後ろめたさとともにその営為がおれ自身の生の継続であり証明であるかもしれないとの可能性にしがみつき、秘密裡に自画自賛するしかなかった。脱力感と汚辱感の分厚い甲羅に石を投げ落としさらにおれに力を補填するためには、おれには当面はその営為以外に選びようが無かった。おれはそれを他人眼から隠し、何食わぬ顔をして誇らしげに生きようとした。

  記憶は保存されなければならなかったが、実際の局所においては不分明な個所がほとんどであり、推測によって埋められなければならなかった。怯んだことによって行為が中断されたとの仮定を肯うならば、行為の継続線上に見えたであろう風景と感覚もまた想像されなければならなかった。だがそれらの営為には、おれが云うところの空想や捏造と、おれの自由の標榜によってごちゃ混ぜになる危険も孕んでいた。おれはその危険に踏み込んだ。というのも、どうでもよかったのだ。秘密裡の個人的営為に賭けて、安全は約束されていたのだから……。血のかすかな予感も、親しくなりかかった人も、それらにたいする怯みも実際であったが、不明瞭な記憶もふくめて、おれはそれらを神棚から引きずり降ろした。おれは阿呆であり無力であったので、怠慢と不遜によっておれの当面の空想の自由を保障するしかなかった。おれは堕落した。
  おれは空想の小さな浮遊体に乗って中断されたであろう過去に、現在として手に負えないように蒼黒くも醜悪にぶらさがる過去に出発し、引っ掻き回そうとする意志を持つ「もうひとりのおれ」に発破をかけた。これは空想だ空想だ!!と云いつのり断りをつけてから、おれは堰きとめていた血をどっと溢れさせたのか。親しくなりつつあった人を言いがかりをつけて何人も殺したのか。そうであるとしたならば「もうひとりのおれ」は堕落したにちがいない。どちらにしても、強がった濡れた笑いを浮かべた。「もうひとりのおれ」にたいして批判的たるべき手前にいるおれも、当然のように虚偽と悪徳に塗れたにちがいない。ただし、空に描いた落書きのようにも感じられる滑稽さと間抜けさをぬけぬけと告白せざるをえないが、実感といえるほどのものはきわめて希薄だった。おれは本気ではなかった、本気になれなかった。つまりは何もしなかった、できなかったのだ。こんなことして何になるんだろうという思いが、おれの腹の底に執念深くずっと眠りつづけていた。引っくり返った真面目さというべきか。誰にも知られない個人的な時間のなかで暫く停徊したに過ぎなかった。
  過去の映像は少しは鮮明になったのかもしれないが、不鮮明な個所はより不鮮明さを際立たせた。

  糾弾する声は地下室には聴こえてこなかったので、時間は止まった。おれは傲慢だったのか優柔不断だったのか。鋼鉄の直方体のような無音の部屋の退屈さ。罪も罰も実感しえないおれの罪と罰。実感を切実にするためにはおれは「もうひとりのおれ」にさらに発破をかけなければならなかったが、堂々巡りが見え見えで、本気をさらに重ねられなかった。血は退いて行った。塗料と同質になり色もしだいに褪せた。おれ自身の痕跡と認めざるをえない汗や体臭や精液だけが残り、壁や床から塗りたくられたように匂いを突いてきた。おれはぼんやりしつづけた。

    11:20 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

閉じ込められた部屋1

  どうして同じ部屋ばかりに閉じ込められるんだろう。おれ以外にはだれもいないことは当然かもしれないが、またこれ以上探索しても無駄であるとの諦めも自分自身ではっきり断定し納得したわけでもないのに、その結論にごく自然に落ち着いてしまうところがおれにはあって。おれは論理的ではない、感覚的人間だ。同じことを繰りかえすのは、半分以上飽きてしまっているものの中途でその方法を変えることを知らないからで、最初の出発点にもどることをも潔しとしないのか、それとも身に付いた怠慢からか、一つであるかもしれない方法への未練と執着からくるのか、とにもかくにも御破算にして最初の出発点にもどることをあえてしない。同じやりかたによっても何か別の結論や境地がおれにもしかしたら訪れるかもしれないという僥倖を期待するからで、しかもその僥倖であるかもしれないと期待する一息ついた後の結果の内実、舌の上に乗せた種の甘味苦味を感受し測定するのもおれの感覚でしかなく、しかもそれが決まりきって大して変わり映えしない味覚をおれに押し付けてくる。
  おれの部屋にはおれしかいないから、当然おれの汗とわずかな血とおれの体臭が壁や床に染み込んでいる。おれはおれが嫌いだから、何かを為しておれから離脱しようとしたのだが、こういう境地に安住しないまでも、おれの記憶のなかにだけにはこの部屋の実在を認めざるをえないだろう。おれはおれ自身を何も変えることができなかった。無駄とはうすうす直観しつつも、同じことを繰りかえす愚を自覚しつつも、同じ極少の言葉による空想の浮遊体に搭乗することに甘んじてしまった。その少しは堆積したであろう疲労と消耗と馬鹿さ加減もまた、おれの記憶にいっそう後退したおれの自画像として刻みこまれるであろう。
    21:15 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top
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