大洋ボート

壁をつたって流れるのは
血ではない
体から滲み出し
溢れ出した水に過ぎないが
そこここに蠢き出すものがあり
微小な翅さえ光る

戦士の首が
夜空を飛んで行った
笑いを帳消しにする別の笑い
切り裂くナイフとともに
髪毛の匂いが充満した
その空白に
羨望はごく自然に産声をあげ
想像力の欠片のお零れにあずかった

殺せやしない
死ねやしないが
追随するシンパシーが
体の半分のまた半分くらいを唆し
唆しのゴンドラに腰かけてみた
欠片はミミズとなって新月をめざした

壁をつたって流れるのは
血ではない
体から滲み出し
溢れ出した水に過ぎない
区切りの一つに過ぎないが
カメムシの拭いきれない匂い
穢れの感覚が固着化する

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    10:19 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

看板

怨みが看板であるが
朽ちかかった家屋
饐えた匂いがする
真新しい柱の白さを
幻想してみせるが
これみよがしに斜めにして
両手で抱いてみせるが
溺れられずに停滞する

怨みの看板は
過去を切断できず
過去よりもいっそう感傷的な過去
痩せほそり水滴垂らす獣
その水滴をおまえもしこたま浴び
だから過去のリズムの復活を願うが
罪科の手に鷲づかみされなかった幸運
今度はやられるぞ
隘路を見据えると
熱い霧が噴き出している
隘路よりも大きい人影が出入りしているではないか
ほんとうのところ
胸を撫で下ろしている

怨みの看板はたんに
周囲からの遮断壁
断片やらガラクタやらの囲い込み
おまえの愛に目配せで応えてくれた?
おまえの言葉から逃げ出した
屈辱は長引くと鈍麻する 屈辱でなくなる
そのさなかでの目を背けたくなる薄笑い
まだまだやりのこしている
時間はあるという自己満足の表層の蝿

怨みの看板
過去よりも感傷的な過去
誰に対して何事に対してことさら怨むのではないことを
おまえは充分には向き合わない
怨みの看板は意義深い謎を今も有していると強弁する
何処かへ行こうとしているが
その歩み動きはきわめて緩慢だ
地べたと同じ高さになり
何処へも行かない
    09:04 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

女神

  男神の髭を引っ張ったり 瓢箪に似たしかし瓢箪よりもかなり小さい果実を捥いで食べたりしていたのだが 虹の階段に昇って蜂や蝶や猫と遊んだりしていたのだが きわめて記憶は曖昧である 何故なら それらはぼくが暗闇の子宮に閉じ込められていた頃のことだから そのときぼくは生まれてはいなかった 
  ……気がつくとぼくは裳裾の広い黒いドレスを纏った三人の女神に見守られていた 五、六歩離れた位置だったろうか 息がかかるほどの近さでもなく話しかけられないほどの距離でもなかった 別に彼女たちがぼくを暗闇の子宮から引っ張り出したということではなく ぼくが他の存在によって発見されたことをぼく自身が彼女たちの存在によって教えられ ぼくは生まれたという自覚を最初に持たされたということだ  

  そのときにぼくは生まれたというわけだが 眩い光にたちまち頭がくらくらしたものだが そればかりではなく 彼女たちの驚愕しながらも それをひたすら押し隠そうとする眼差しにもぼくは驚かされた 彼女たちは相談しあっていた そしてぼくに関して彼女たちなりに概ね妥当と思える印象なり観測なりをすでに共有していたらしいのだ 何故ぼくにそれがわかったのか 鳥が巣の奥に姿を隠そうとする直前のわずかな時間に捉えられた残像のように 託宣としてまた大いなる直観としてそれはぼくにもたらされた 説明がなかなか困難ではあるが 錯覚であろうと無かろうとそれはぼくにとっては無前提的かつ圧倒的であった 彼女たちがぼくの眼差しから隠そうとしたぼくに関する第一印象から ぼくが彼女たちを発見し向き合う直前に彼女たちのなかで固定化されたぼくに関する評価らしきものまでが その内実がぼくにとっては不明なままの外観のみが 怖ろしさの予断に基づいてぼくの脳漿のなかにナイフのように強烈に突き刺さった
  強調するために再度言うが 彼女たちがぼくにたいしてどんな風に観察を終え どんな風に結論を纏めてぼくの像を確定したのかは ぼくには知る由もなく手がかりもないのだが ぼくにとってはそれがどんな内実かに関わらず 終始ぼくの不参加のもとに纏められたことが不本意そのものだった また同じことであるが ぼくはぼくの知らないぼく自身が 彼女たちのなかでぼくと無関係に勝手に存在し息づいているらしいことが また彼女たちの随意によって彼女たちの視野のなかでぼくが排除されたり忘れ去られたりするかもしれないことがたいへん腹立たしかった 感情的高まりが無前提的断定としてぼくのなかに天頂から降下してきたのである

  例えばどろどろに溶けて陥没した眼や鼻や口 白過ぎる皮膚などの 彼女たちに酸鼻をもたらすに足る畸形的外観をぼくは有していたのか 今にも彼女たちを殺戮するに足る巨人の牙をぼくは剥き出しにしていたのか それとも彼女たちに永遠の生を約束する 窃盗するに値するほどの宝物の類いをぼくがぼく自身の知らないままに臓腑の奥深く隠し持っていたのか はたまたそれらが合体したわけのわからない印象が彼女たちのなかに不安定に横溢していたのか 推察はあれこれはたらいたがあくまで本能的反応による推察ともいえない推察に過ぎず ぼくは彼女たちの脳漿を覗き込むことはできない存在である とにもかくにも ぼくは彼女たちと彼女たち以外の そうだ思い出さねばならないが ぼく自身と奥深くで繋がっているらしい大いなる何者か あの髭を引っ張ったこともある男神によって完璧に支配され統御され金縛りといえるほどになっていた 何の根拠もなく しかし胸底の火山から突然噴き出してきた溶岩のように感じられた かかる空想や妄想と呼んでも何ら差し支えない圧倒的観念にぼくは揺すぶられ 絞殺されそうになり押し出され 前のめりになった ぼくは無性に腹立たしかったということが正直なところであるが それは正当性に鍛え上げられ裏打ちされたかに見える憤怒へと昇華する寸前であったのであり しかもそれはぼく自身気づかないままに 生まれる以前の子宮のなかでぼくがしこしこと養い育てていた雛であり武器であり こうして生まれた直後に突然変異のように化け物的に急速度で成長したものであるらしい 男神の髭をいたずらで引っ張ったときに毒源は伝染し 潜伏期間を経て生まれると同時に顕現化したのだ 腹立たしさのその考えられない急膨張はぼくという人間の平衡感覚を遥かに超えていた だが引きつづきぼくがぼくであろうとする力のベクトルを腹立たしさの毒は極々自然にぼくの眼の前に開示した ぼくはぎりぎりのところで踏みとどまった 一方もはや残像に移行した後だったかもしれないが 彼女たちからは暫し ぼくを押し返そうとする力と吸引しようとする力が 彼女たちの与り知らないままに同時に強烈な電気のようにぼくに向かって作用していたので ぼくは壊滅しつつあるという思い込みから自由ではなく ぼくという人間を作り上げた奥深い存在たる男神が毒を媒介にしてぼくを咄嗟に促した結果 ぼくのあたふたとした曲がりなりにもの対抗手段だったのか憤怒とは

  生まれなかったほうが好かったのかもしれないという思いが掠めたが そんなことは詮無い願いである 暗闇の子宮には戻れない  ぼくは三人の女神によってこの世に生を受けたので彼女たちのことしか知らない その存在の強烈ではあるが外観しか知らないのであるから 彼女たちの内実を知ることから始めなければ他のどんな事象をも知ることはできないだろうとの確信に見舞われる しかし あなたがたとあえて三人の女神を呼ぼう あなたがたは何も教えてはくれないだろう そしてあなたがたはたちまち去って行くであろうが その強烈さは記憶としてぼくのなかに高い碑のように打ち立てられる ぼくはあなたがたの熱噴き出す肉襞 高い天井から降ろされた あなたがたのドレスと同じ色の黒いシーツの肉襞に囲まれたなかに 耐性を養いながら暫くは留まらなければならないだろう 油にまみれた瓢箪や焼け焦げた蝉がへばりついている肉襞に囲まれて
    10:33 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top
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