ホテル・ルワンダ(2004/カナダ・イギリスその他)

ホテル・ルワンダ プレミアム・エディション ホテル・ルワンダ プレミアム・エディション
ドン・チードル (2006/08/25)
ジェネオン エンタテインメント

この商品の詳細を見る

 アフリカはとおい。北米、ヨーロッパ、アジアに比べて私達の関心は低い。人的、経済的交流もそれらの地域に比較して少ないのだろう。未開、貧困、紛争といったおおざっぱなイメージでとらえてしまいがちである。また、こういう意識格差が私達日本人に一般的であるならば、新聞等による情報格差もごく自然に生まれてくるものだろう。例えば、アメリカでの9,11テロは私達にとって衝撃であったし、それにつれてアメリカは無論、世界も日本も政治的にあわただしく動かねばならなかった。だが同じ規模の、あるいはそれ以上の大殺戮事件がアフリカで起きても、私達は9,11事件と同じ驚きはもたないし、ジャーナリズムも大きくは取り上げない。世界の国の動きも鈍い。恥じ入るかどうかはともかく、感性的環境としてアフリカがとおいのは事実だ。

 この映画は、そういうアフリカで1994年に起きたルワンダ内戦を背景にしている。結果的に総数100万人もの死者を出した世界大戦規模の内戦だった。主人公は外国資本のホテルの 支配人のドン・チードルで、客層も白人が主で、彼自身もルワンダ国内ではめぐまれた地位にあるのだろう。そんななかフツ族からなる政府軍と民兵がツチ族を皆殺しにせんとして大挙押し寄せてくる。ドン・チードルはフツ族だが、彼の妻はツチ族だ。ツチ族にかぎらず、ツチ族をかばったフツ族の人間も標的にされる、という。とくに統制のない民兵組織はおそろしい。無防備、無抵抗のツチ族の人を鉈(ナタ)でなんらためらいなく惨殺する。切羽詰まった彼は英雄的におおぜいの同胞をホテルにかくまう。

 ドン・チードルは気丈にふるまう。人的繋がりを最大限利用する。政府軍の将軍に金品を与えたり、民兵と関係のある商人から情報を収集したり、また平和維持軍のキャップのニック・ノルディ(ものすごく善人に見える)に救援を求めたりと。金も知恵も使う。そういうことで何回かある危機を回避する。また、いたましいが家族には自殺の準備をしておくように勧める。惨殺よりもその方が、いい死に方だと思うからだ。ただ、このあたりはドン・チードルは映画的ヒーローの範囲内だ。それが崩れる場面がこの映画の白眉といえる。

 自動車での移動中に道ばたに横たわる累々たる死骸を目撃してからだ。それ以前に彼は、白人ジャーナリストが撮った殺戮場面の映像を見ているが、その眼で直接に大量の屍を見るのははじめてなのだ。ホテルの更衣室について彼は着替える。何事もなかったと、みずからに言い聞かせるようにネクタイを結ぶドン・チードル。気丈にふるまうかに見える。だが内心の動揺によって、何回やってもうまく結べない。ついに堰を切ったようにくずおれて号泣してしまう。押し寄せてくる恐怖と悲しみが、彼を鷲づかみにしてしまったのだ。このときほど、私達は主人公を身近に感じることはない。

 ホテル支配人だから、ドン・チードルは平和も贅沢も他の同国人よりも知りえている。つまりその分だけ先進国に近く、同じ分だけ、ルワンダの惨状と死からとおいのだ。主人公のこの立ち位置が、アフリカの小国の内戦を描いたこの映画を、私達に理解しやすくしていると思える。死は情報であり、どんなにとおくとも想像の対象である。だが急迫してくる死は、そういうものとはまるでちがう。持ちきれないほどの感覚であり、肉体のふるえなのだろう。この映画はそれを教えてくれる。アフリカのとおさは、この映画を見ても変わらないのかもしれないが、束の間、私達は死の形相には近づく。 

23:31 | DVDで見た映画・2000年代 | comments (2) | trackbacks (0) | edit | page top↑