大洋ボート

焔の部屋

焔の部屋を横目にしながら
開かれたドアの
前方の部屋の
矩形の灰色に向き合う

右腕を
人差し指と中指を
さしだしかけて
発語しようと
唇を微動しかけて
口をつぐんだ あの少女
なおそこに佇んでいて
やり残したことがあるかのように
わたしの発語を待つように
わたしの一挙手一投足を見守っていた
なおそこに佇んでいた
あの少女

残像はわたしのなかで確たるものではなく
天から槍となって急降下した断言
わたしの脳天を直撃した新世界
わたしの生誕の瞬間

少女は柔らかかった
押せばどこまでも受け入れるクッションのように
無防備で
焔のように柔らかかった
焔はわたしを嗾けた
それに託けて
勢いを充填して押し入ろうとして
ためらった かろうじて踏みとどまった
心臓の毛穴の無数から汗が噴き出した
わたしはラスコーリニコフではなかった
少女の瞳にも刻み込まれたであろう その瞬間のわたし
そして「わたし」が刻み込まれた少女に
あらためて気づいて
再びのように対峙しつづけたが……

わたしはそのとき
語るべきだったのだ少女に
逆流する滝のように
欲望が喉元を駆け上がったが
いくら覗き込んでも
手を突っ込んでも
深奥には言葉はなかった 水も砂も
過去も現在も未来もなかった
そのあっけらかんとした空白
黒々とした深奥を 後退した今も
欠損のように苦々しく凝視しなければならないのか

焔の部屋を横目に
前方の部屋の
矩形の灰色に向き合う
開かれたドアが
パタンパタンと風に揺れる

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    10:45 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

上半身

追随する
下半身は動かさず その分
上半身がいっそう前のめりになる

あーあ
いやな風が吹く
昔とそっくりな自分自身を温存したところで
何になるのか

隊列のいちばん後ろに位置して
ついて行ったつもり
燕がしきりにカスタネットを鳴らし
旨いパンを喧伝しながら
先を急いで消えた
アドバルーンが狭い部屋に乱立する乱痴気騒ぎのなかにあって
その鮮やかな航跡のルビーは だが
わたし自身ではなかったが
今もなお わたしの胸郭に
唆すように ごりごりと刻印しつづける

背伸びしても
先頭の風景はつまびらかにはならなかったが
だれもが一度くらいは先頭に立たされることがある
そのさなか
先頭どころか
まわりにはだれも居ない 星も鹿も虎もいない
「宇宙の外」の暗闇の中心に陥ちた
何をやってもやらなくても手ごたえはなかった
網の向こうから覗き込む奴がいた?

追随する
わたしの知らない人が
あらたな風をまとって飛翔するという
その噂を信じてみようか
上半身だけでも 追随してみようか

    14:25 | Trackback : 0 | Comment : 2 | Top

壁をつたって流れるのは
血ではない
体から滲み出し
溢れ出した水に過ぎないが
そこここに蠢き出すものがあり
微小な翅さえ光る

戦士の首が
夜空を飛んで行った
笑いを帳消しにする別の笑い
切り裂くナイフとともに
髪毛の匂いが充満した
その空白に
羨望はごく自然に産声をあげ
想像力の欠片のお零れにあずかった

殺せやしない
死ねやしないが
追随するシンパシーが
体の半分のまた半分くらいを唆し
唆しのゴンドラに腰かけてみた
欠片はミミズとなって新月をめざした

壁をつたって流れるのは
血ではない
体から滲み出し
溢れ出した水に過ぎない
区切りの一つに過ぎないが
カメムシの拭いきれない匂い
穢れの感覚が固着化する

    10:19 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

看板

怨みが看板であるが
朽ちかかった家屋
饐えた匂いがする
真新しい柱の白さを
幻想してみせるが
これみよがしに斜めにして
両手で抱いてみせるが
溺れられずに停滞する

怨みの看板は
過去を切断できず
過去よりもいっそう感傷的な過去
痩せほそり水滴垂らす獣
その水滴をおまえもしこたま浴び
だから過去のリズムの復活を願うが
罪科の手に鷲づかみされなかった幸運
今度はやられるぞ
隘路を見据えると
熱い霧が噴き出している
隘路よりも大きい人影が出入りしているではないか
ほんとうのところ
胸を撫で下ろしている

怨みの看板はたんに
周囲からの遮断壁
断片やらガラクタやらの囲い込み
おまえの愛に目配せで応えてくれた?
おまえの言葉から逃げ出した
屈辱は長引くと鈍麻する 屈辱でなくなる
そのさなかでの目を背けたくなる薄笑い
まだまだやりのこしている
時間はあるという自己満足の表層の蝿

怨みの看板
過去よりも感傷的な過去
誰に対して何事に対してことさら怨むのではないことを
おまえは充分には向き合わない
怨みの看板は意義深い謎を今も有していると強弁する
何処かへ行こうとしているが
その歩み動きはきわめて緩慢だ
地べたと同じ高さになり
何処へも行かない
    09:04 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top
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