大洋ボート

怒り

  広瀬すずがボーイフレンドに誘われて、沖縄の無人島を訪れる。南国らしい風光明美さがのこされた地で、そこには放浪者の森山未來がいる。廃墟を利用して、不定期に寝泊りしているらしい。森山に興味を抱いた広瀬が遠慮がちに声をかける。この冒頭部分を過ぎたあたりの部分に惹かれた。
  人が出会いをもとめて新たな人に近づく。寂しさが最初の動機かもしれないが、いい人、付き合いをつづけたい人だと双方が思えば友人関係が形成でき、さらには家族にさえなれるかもしれない。そこまで行ってしまえる確信を最初から抱くことは勿論できないにしても、まずは近づいてみる。その際のセリフの「間」が魅力的だ。特に用事があるわけでもないのに初対面の人に声をかける。遠慮しながら、何を言おうかと頭をめぐらす。また言うことが決まってもそれをためらい無しに口に出していいものか、とも迷ったりする。そういうときには言葉はすらすら出てこずに淀む。だが好意は少しずつ形成される。そこに介在する言葉と言葉のあいだに生じる「間」という沈黙。これが実に生き生きとして魅せられた。あっ、こういうことがあったなと、わたしもとおざかってしまった若い時代を想わずにはいられなかった。
  広瀬すずのボーイフレンドは同年代らしいが、広瀬の視線をとおすと子供子供したところが残って、ちょっと頼りなく見えなくもなく、広瀬が飽き足りない気持ちを抱くのかもしれないというところまで伝わる気がした。比較すると、森山未來は素性が知れないうえ、うす汚いが、生活力旺盛で明るく、親切にみえる……。それに無人島の上空を、轟音を響かせて飛翔する米軍ジェット機は、やがて明らかになり、無人島の三人に深い傷を刻み込む米軍基地に占領された沖縄の現実をも暗示する。
  渡辺謙が、家出して風俗業に身を投じた娘の宮崎あおいを自宅に連れ戻す。水産業をなりわいとする海辺の町で、渡辺の営む会社にはアルバイト従業員の松山ケンイチがいて、宮崎は早すぎると思えるほどに松山に近づく。渡辺の危惧が図星になったように。妻夫木聡は歓楽街のゲイのたむろする店で綾野剛に目をつけ、強引に関係をもったあと自宅に連れて帰る。この二つの人間関係にも先に記したセリフの「間」が引き継がれる。そしてしだいに「間」はつめられていき、映画は疾走状態に入る。広瀬も宮崎も妻夫木も片親しかいないらしく、何かしら欠損感を抱くようで、そこは説明ははぶかれているようだが、映画だから、感覚が伝わればいいのだ。広瀬は無垢だが、宮崎も妻夫木も先を急ぎ過ぎる。そこは少し異常で、カッコ悪さが美男美女にもかかわらず浮き上がってくる。また松山ケンイチと綾野剛はうつむき加減で無口だ。渡辺謙もふくめて、主な」登場人物全員が闇を抱え込んでいる。この空気がよく表現されていると思った。さらには、整形して逃亡中の殺人犯の話題がテレビで報じられて、森山・松山・綾野に似た顔であることがわかって、妻夫木や宮崎を戦慄させる……。(そのニュースを伝えるテレビのキャスター役が赤絵珠緒で、この淀みない語り口が、記した広瀬らのセリフの「間」とたいへん対照的で、「間」をさらに印象付ける)
  渡辺謙が最初から悲観的な表情と語り口で、不自然さを感じさせたが、彼は娘の宮崎のみならず、映画全体の主たる登場人物と空気を想い、代表しているのではないかと思い直した。渡辺謙が主役であれば、それにふさわしい演技だろう。李相白監督の指導もあってか、俳優のほとんどが演技巧者で、力強さもあり、見応えがあった。
  つけくわえると、森山未來が同じような造りの戸建が林立する区画にいって、道に迷って途方にくれる場面。これもわたしの若い日を思い出させた。家は多くあるものの人の気配がまるでなく、尋ねる人もいなくて、訪問先に行き着けないままに引き返したことがある。、あれだけ多くの家があって人の気配がないのが、無気味でさえあった。     
 ★★★★
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    12:38 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

レヴェナント:蘇えりし者

  森のなかを流れる豊富な水。増水した川のものか、大量の雪解け水かわからないが、カメラはしばらくその水の滑らかな表面を追っていく。やがて主人公のレオナルド・ディカプリオとその息子そのほか数人の男が映し出される。ディカプリオは鹿を発見し銃の照準を合わせて見事に仕留める。だがその銃撃音を合図にこれでもかこれでもかと矢が飛んでくる。ここまでカメラはワンカット、つまり長回しだ。やや距離のはなれた場所にはディカプリオと同じグループの多人数の仲間がいて次々に無慈悲に矢の餌食になる。ディカプリオらは彼等と合流し銃で応戦するが、「敵」はひるむどころか、距離をつめてきて姿をあらわし矢と銃、さらにはナイフを手にして襲いかかってくる。矢の命中によって人は絶命しあるいは失神するが、無残さを嘆く暇がない。同じ悲運に突き落とされる人がそこここに現出するからだ。あわてる、だが震えてはいられない。人々は最善の対処と感覚した行為に即座に就かなければならない。戦闘とはこんなものだろうなと思いを新たにさせられた。この冒頭の場面は観客を引き込む力がある。
  北米大陸の開拓時代が背景で、動物の毛皮採集を生業とするグループが記したように原地住民と激しく対立する。原地住民(昔は「インディアン」と呼ばれた)としては自分たちの土地への侵略であり略奪であるという思いは当然すぎるので、戦争になるのはやむをえないかなと認識させられた。
  それよりも、わたしが印象的だったのは現代との食文化の著しいばかりの相違だ。息絶えたばかりの血まみれの動物から肉を取り出してむさぼり食らう人々の姿で、彼等は餓えているのだろう、また眼の前にあるその死体=肉に激しく食欲をそそられるのであろう。これは、家には冷蔵庫があり、街にはスーパーやコンビニがあり、瞬時にして食欲を満たすことができるわたしたちの食習慣ではない。はたして現代人のわたしがああいう場面で、はたして同じように食欲を刺激されるのだろうかと思ってみた。やはり慣れてしまえばがつがつ口に入れるかもしれないが。
  この作品の見どころとしては全体の4分の1くらいか。グループが原地住民から逃亡する過程でディカプリオが瀕死の重傷を負い、仲間から足手まといにされて見捨てられる。以降は彼の奇跡的な生還と復讐(相手は原地住民ではない)のストーリーだが、これが長くて退屈する。ディカプリオが主演だから、生きようと死のうと彼の溜飲を下げる展開になることはわかりきっているのではないかとの思いがどうしてもつきまとってきた。手を代え品を代えの冬の北米の風景はなるほど美しいにちがいないが、長時間見せられると食傷してくる。
  ★★
    14:19 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

ブリッジ・オブ・スパイ

  1950年代後半の冬のベルリンの物情騒然としたさまが、一番に映像的に印象に残った。戦争の結果当時のドイツは東西に分割され、さらに東ドイツ領内のベルリンは唯一西側が支配する西ベルリンと東ドイツ領となった東ベルリンとに分割されていたが、ソ連軍が駐留する東ベルリンの住民がその苛酷な政治支配体制を嫌って西ベルリンに移住する事態が大規模に起ころうとしていた。そこでソ連は西ベルリンを壁で囲んで、その移住を阻止しようとかかり始めたのである。火がついたように焦燥にかられてあわてて西側に逃げ込もうとする東ベルリンの住民。難なく成功する人もいれば、ソ連兵に阻止される住民もいる。脱出できた住民はさらに西側の古ぼけたビルに上の階の人に手を指し伸ばされてよじ登っていく。まさに個人のその後の人生がこのいっときの運と不運によって大部分が決定づけられる瞬間だ。一方のソ連兵は、装甲車や戦車、さらには櫓に陣取った狙撃兵が警戒するなか、落ち着き払って任務を遂行するばかりだ。ブロック塀にセメントを塗って、一段ずつ積み上げていくソ連兵の粛々としたさま、その白く大きい冷たくも見える手が、たいへん憎々しくも見えた。彼らの日常的任務の無意識が、個人も敵対する国家も容易に突き崩すことのできない、たいへん冷酷な政治的現実をつくりあげつつあるからである。
  「壁」を中心とした俯瞰撮影では、ソ連兵やベルリン住民など多くのエキストラが動員される。また戦争終結後10年以上も経るのにいまだ瓦礫だらけの東ドイツの惨状も短く映される。予算規模の大きさがもとめられるのは必至で、「巨匠」と呼ばれるスティーブン・スピルバーグ監督だからこそ成しえたのであろう。
  書き遅れたが、映画の主題は米ソの罪人の交換で、それを交渉人として担うのが、保険会社の顧問弁護士のトム・ハンクス。米国内でスパイ容疑で逮捕されたソ連人と、ソ連領内で撃墜されかろうじて生きのこった偵察機のパイロット、さらに東ベルリン内でスパイ容疑で逮捕されたアメリカ人学生。ソ連人の国選弁護人を引き受けたところから、CIAによって彼に白羽の矢がたった。保険会社の弁護人のときはあまり気乗りのしない様子で交通事故の被害者に金を出し渋ったハンクスだったが、少しずつやる気を出してくる。しかし、おっかなびっくりの気持ちは最後まで彼を支配するようだ。CIAとアメリカはパイロットとの1対1の交換で十分と割り切るが、2対1という虫のいい交換条件にトム・ハンクスは固執する。人がいいのか、弁護士としてのまた愛国者としての責任感だろうか。
  彼が起用されたのは、国家職員ではなく民間人だからだ。初期の交渉においてトーダウンから入るのが適しているからだろうか。東ベルリン内のソ連大使館には、CIAの指示によって案内人無しに単独で行かされる。これはこころ細い。途上、不良っぽい若者のグループに囲まれる場面など怖い。
  映画の結果は書かないとして、東ベルリンを去る高架上の列車のなかから、ハンクスは壁を乗り越えようとしてソ連兵によって銃撃される住民数人をたまたま目撃し、涙目になる。ちょっと唐突な気がしたが、政治的現実の大きな壁全体をあらためて意識するのかもしれず、映画の主題の関連からすれば必要な涙目なのだろう。それに帰国してからの電車通勤の途上での窓外をぼんやり眺めるハンクスの眼差しがつながる。前後するが、ようやく自宅に帰ったとき、彼は妻と抱擁したのち、ベッドに俯せになって泥のように眠る。能力と度胸をすっからかんに使い果たした疲れが、どっと噴出して来たのであろう。この一連の演技、トム・ハンクスには説得力がある。
  60年前の話だからか、アメリカの家族は健全であたたかい。またアメリカという国家の抱える今日的な内外問題にはまったく触れないことは、映画の流れとしては当然なのかもしれないが、いささかの不満は残った。
   ★★★★
    11:51 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

日本のいちばん長い日

  昭和20年8月15日の終戦前後における天皇をもふくめた政府中枢部の動きを丹念に追ったドラマ。ポツダム宣言(連合国の日本に対する降伏勧告)を受諾するか否かで、戦争継続を強固に主張する阿南惟幾(これちか)陸相らと天皇の意を汲んだ鈴木貫太郎首相をはじめとする終結派との激しい論争があり、他方では陸軍青年将校グループのクーデターをも視野に入れたより強硬な戦争継続画策の動きも描かれる。
  緊迫感が最後まで持続して、この時代の残酷さや愚かさを感じ取りつつもその点では映画としては成功の部類に入るのではないかと思ったが、物足りなさも受け取らざるをえなかった。むつかしいのかもしれないが、つまりできるだけ史実に忠実になろうとしているのだが、逆にフィクションでもいいから、今日的な視点を導入してほしかった。一昔前まではあの日の政治決断を「無条件降伏」という言葉でふりかえられたものだったが、今ではそれはほとんど使われない。この映画でも描かれるように政府中枢が天皇(および皇室)の生命と地位の保全に固執したからで(国体の明徴といわれる)そのために宣言受諾がぐずついたので「無条件降伏」では決してなかったということだ。旧憲法体制にあってはとくに政府首脳にあっては天皇の生命・地位を最優先することは当然すぎたのだろうが、その手ごたえを得る時間までにおそらくは何十万という貴重な日本人の命が犠牲になったことを、わたしたちは忘れてはならないのだ。それに昭和19年10月のフィリピンでの戦いによって日本海軍は主要艦艇のほとんどを喪失してしまい、翌年の沖縄占領を待つまでもなくもはや戦争遂行能力は無に帰していたのである。それなのに連合軍に和平を提案することもなく原爆を投下されるまで戦争をやめなかった。ひとつには国民の熱気がまだまだ戦を後押ししたのだろうが、戦争継続に批判的な閣僚を登場させてもよかったのではないか。(たとえば米内海相や東郷外相にもっと語らせるというように)「これ以上国民に犠牲を強いるわけにはいかない」という言葉が天皇(本木雅弘)ひとりからしか明瞭に出てこないというのは不満だ。そのほうが、むしろ継続派の主張を逆により鮮明に浮かびあがらせる効果もあったのではないか。この映画への個別の感想というよりも、歴史としての戦争にたいする見方に傾斜するきらいもあるが、戦争映画となると、わたしはどうしても書かざるをえなくなる。
  わたしは「激論」を期待したのだが、もうひとつ。そのせいか阿南役の役所広司はもっと語りたいのではないかという印象を持った。海相の米内光政と論争になりかけても何故か打ち切られる。自制がはたらくということか。天皇との二人になっての立ち話も短く、あっけない。これだと阿南の天皇にたいするひとかたならぬ想いがもしあったとしても伝わらない。それに青年将校グループと阿南の会話も少ない。逆に本木雅弘の天皇や山崎努の鈴木貫太郎は十分に口に出しているという印象が残った。天皇は政治に口出しできないという暗黙の了解があり、また鈴木は閣議や御前会議において天皇や閣僚に語らせるお膳立ての役回りだからだ。青年将校はセリフが聞き取りにくいところもあるが、こんなところか。戦い死ぬことを人生の目標として心身を鍛錬し日々を過ごしてきたのだから、前のめりになるのは理解できないこともない。
  短いが、空襲で家屋が焼け落ちる場面があった。これにははっとした。
   ★★★
    12:00 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top
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