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大洋ボート

 本と映画の感想文。詩作も。

沈没船

紙の顔の男
棒杭のように
標識のように突っ立っている
夢とうつつのあわい
沈没船のデッキに突っ立っている

ゆるやかな潮の流れに皮膚を
少しずつ少しずつ浸食させながら
境界を曖昧にしながら
潮に抗するでもなく委ねるでもなく
突っ立っている紙の顔の男
手綱らしきものを右手にぶらさげているが
遊び相手の犬は居ない

どうしたことか
滅亡しても滅亡しきれない
安らかに死なせてくれない
いたずらまがいに
天国のだれかが打ち込んだ宿運の火の楔か
潮に浸されてどんどん縮小していくものがある
膨張するものがある

わたしのうつつにも移り住む沈没船
潮の匂いのなかの異臭
暴れ出す錨
わたしのうつつを根こそぎ持ち去ろうとする邪悪
糊のように停滞する潮のなかの蛍
夢のなかでも紙の顔の男はわたしを知らないだろう
顔を皺くちゃにして手を差し出すでもない
はるかに遠い紙の顔の男
潮に侵されながらただゆらゆら揺れる海草の紙
ただゆらゆら揺れる
軽蔑するように



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    14:23 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

赤い信号

海の底に眠る小箱で
呟く
痛い信号は
憶い出さなければならない
憶い出しても
中途までしか辿れない
歩いて近づいて行った断崖は薬品で溶かされ……

悪徳の蜜を舐めた
悪徳に遅れて気付きはじめる
鈍重な時間の洞穴で
つっつく針金
痛い信号が芽を吹いた
探り当てるように正確無比に芽を吹いた
室内をやたら歩きまわる猫の
脳漿が重くなった
室内はもっと重くなって

逃げた
逃げ遂せて群衆の毛布にまぎれこんだ
今さらながら
悪徳に色眼を送る?
やだねえ

海の底に眠る小箱で呟く
痛い信号は
痛さをいく分かは潮でやわらげられ
赤い光の眼差しとなる

    14:36 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

消滅

近くにではなく 
遠くにある
意識したくない
固い果実をぎゅっと握りつぶすように
堪えたい
とぼけつづけていたいが
近づいてくる
不可逆的に

真夜中の海を
船が近づいてくる
鬼火をともして
鼻水垂らして
幽かな悲鳴
軽石の千鳥足で近づいてくる
やがて船は消え……

海は脳内に移植される
骨の無い足がじたばたする


    12:14 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

海辺にて

夜の帳が下りて
水平線は消失する
ブイも

潮騒
窓を閉じても流入してくる
というか
建屋全体が既に
悪癖の
曲がった嘴の匂いに深く犯されている

夢かうつつか
横長の白波が立ち現われる
恋人の瞳ではない
ザザアザザアザザアー

夢かうつつか
砂浜をうろつきまわる猫
こちらを見ている
その中心の渦巻にある金髪


    10:34 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

声無き声

声に出さないでくれ
大理石の上辺の滑らかさで
微笑みかけないでくれ それは
僕自身が捏造したものであることを
よく知っているから

悔恨に似た偏頭痛を いつも変わらず
過不足なく照射する
あなたの堅牢無比の監視力
声の無い詰問力 圧搾力
変わらずにあれ
ときには口に真珠を含み
僕を窃視しつづけろ

僕に麻酔をかけるな
これくらいの痛みと脱力と倦怠なら
生涯 引き摺って行けるぞ
メスで患部を切り取るな
メスよりもヒントになりうる
僕の痛みと脱力と倦怠 そして
息のできない神秘

僕はいつかあなたに会いに行きたいと想う
それまでは死ぬわけにはいかない
あなたはいつまでも待っていてくれているだろう

    10:50 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top

糾弾する者

蚊が消える方角
脳漿の海に
あるかなきかの小さな光

わたしの不正義を糾弾する声か
シンバルが両耳を絞めつける
他人事として遣り過ごそうとするが

支えきれない壁が何度も斃れる
水のなかで月が溺れて爆ぜ
わたしを急き立てる

わたしは集団に属している
荷物運び一つとっても
リズムの膠質を物理的に引き剥がせない

悲鳴を上げられない
未来から見てもわたしは不正義かどうか
曖昧さを気弱く引き延ばす「義務」の沼地

隣りの男を窃み視る
ありふれて騒がしいその男
見て見ぬふりをするその男もわたしも

わたしの不正義を糾弾する声は神か悪魔か
世界がこんなにも暗いとは思わなかった
そいつの心臓を鷲掴みできない

    10:37 | Trackback : 0 | Comment : 0 | Top
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